落語-落語家-柳家さん喬
『浜野矩随』という噺に登場する若狭屋は、演者によってずいぶん雰囲気が違って感じられる。 例えば、矩随を援助する理由についても差異があるのだが、意図的であったにしろ、なかったにしろ、パトロンの役割を果たしたという点については共通していると言っ…
『鴻池の犬』という噺は、小僧が3匹の捨て犬を拾うところから物語が始まる。 当初、主人は飼うことを許さないが、引き取り手が現れたらすぐに譲り渡すという条件で認められることになり、小僧は喜んで世話をする。 しかし、そのうちの1匹が実際に貰われて…
ねずみ年になったので、久々に柳家さん喬の『ねずみ』を聴いてみた。*1 虎の彫り物のくだりを聴く度に、この噺とは恐らく関係が無いだろうと思いながらも、どうしても思い浮かんでしまうことがあって、今回はそれを書いてみようと思う。 ※ サゲ(落ち)につ…
年末ということで、柳家さん喬の『掛取万歳 *1 』を聴いていたら、妻が「なんで江戸の借金取りが関西弁なの?」という素朴な疑問を抱いたので、それに答えるべく、夫が少し調べてみた。 年が明けるまであと数時間。今年中に書き上げられるか。(『掛取万歳』…
古典落語が描く時代の価値観と現代の価値観との違いが大きい場合、それをどのように解決するかは悩ましい問題なのではないかと思われる。 『井戸の茶碗』では、高潔な人物である千代田卜斎が、高木作左衛門から百五十両という大金を受領するに際して、「何の…
【この記事の目次】 会話から地の文へのシームレスな移行(例えば『天狗裁き』) サゲに使われる場合 ソフトランディング 噺の途中で使われた場合(『天狗裁き』の場合) 立ち退き要求から奉行所へ 大きな転換点 もしも境目が目立ったら 会話から地の文への…
これまで『三枚起請』の騙され組3人について書いてきたのは、遊女(喜瀬川)について考察するためだ。 被害者の特徴を明らかにすることで、喜瀬川の人物像を推定しやすくしようと考えたのだ。 ※ 『三枚起請』のあらすじを確認したい方は ここをクリック し…
『三枚起請』には3人の男が登場する。 その3人のうち、最後に登場する男、Wikipedia では「C *1 」とされている人物に焦点を当てて、柳家さん喬の『三枚起請 *2 』を聴いてみたい。 ※ 『三枚起請』のあらすじを確認したい方は ここをクリック してくださ…
Wikipedia では、『三枚起請』に登場する男3人を抽象化して「A」「B」「C」と表している *1 。東西や演者によって、名前に違いがあるためだ。 しかし、実際に噺を聴く際には、当然ではあるが、もう少し具体性を帯びた人物像を思い浮かべた方が楽しめるだ…
『三枚起請』は、その基本的な筋が共通していても、登場する人物名が東西や演者によって違いがあるらしく、Wikipedia では、登場する3人の男性をそれぞれ「A」「B」「C」としている。*1 この3人が、自分達を手玉に取った遊女を懲らしめようと計画するの…
上手い落語家が演じる落語は、予備知識が無くても充分に面白いのだけど、一般教養レベルのほんのちょっとした知識があれば、より面白く聴けると思う。 例えば柳家さん喬の『棒鱈 *1 』は、何も知らずに聴いても楽しめるぐらい上手いのだけど、時代設定ぐらい…
『棒鱈』の筋はとても単純だ。100字程度に要約すると こんな感じ だが、要するに「酔っぱらった町人が侍に絡む」というだけの話だ。 こんな噺がなぜ面白いのだろう。 柳家さん喬の口演に基づいて、考えてみたい。*1 【この記事の目次】 『棒鱈』の面白さ…
「この後、衝撃の展開が!」という面白さを否定するつもりは全くないのだけど、それだけでは繰り返し鑑賞したくなるような名作にはならないと思う。 先の展開が予想通りだとしても、そこに至る過程を楽しめるものでなければ、簡単に消費されるものにしかなら…
柳家さん喬の『天狗裁き』を聴いてから、こんな単純な噺がなぜ面白いのかを考えているのだけど、今回はさん喬の上手さについてではなくて、噺そのものについて考えたことを発表してみようと思う。 ※ なお、基本的に柳家さん喬の口演に準じています。細かい部…
『百川』についていくつか記事を書いているうちに、その登場人物である百兵衛を中心に据えて書きたくなった。 百兵衛は、河岸の若い衆が言うように抜けているのだろうか。抜けているとしたら、どれくらい抜けているのだろうか。 ※『百川』のあらすじを確認し…
当研究会では、柳家さん喬の『百川』*1 の人気が非常に高く、常にヘビーローテーション状態にあるため、普通なら気にならないような些細なことまで気になってしまうのかも知れない。 今回は、1年ほど前に柳家さん喬が「日本の話芸」で演じた『百川』*2 で気…
先週、季節外れを承知で『百川』の記事を書いたのだが、*1 そのせいで書きたい気持ちを抑えきれなくなってしまったので、再び『百川』について書いてしまおう。 ※『百川』のあらすじは ここをクリック(ネタバレ注意)してください。 『百川』における柳家さ…
7月も半ばだというのに北海道はまだまだ寒くて、暖房を使っていたりするのだけど、そんな北国にも暑い夏が来てくれることを願いながら、柳家さん喬の『千両みかん』を聴いてみた。 ※ あらすじを確認したい方は ここをクリック してください。 【この記事の目…
『夢の酒』は、いわずとしれた「黒門町の師匠」桂文楽の十八番。文楽が作り上げた噺といってもいい、自家薬籠中のネタだった。 『柳家さん喬15夢の酒/妾馬 *1 』の「解題」で、長井好弘はこのように述べ、さらに、柳家さん喬の言葉として、以下のように紹介…
いわゆる「いい女」の容姿をどのように描写すべきか。あるいは、そもそも描写しない方が良いのか。それは、表現者の目的によって異なるだろう。 『夢の酒』においてご新造さんの容姿を詳細に描写する必要性について 受け手にとっての「いい女」をイメージさ…
前回、ちょっとした気まぐれで「次回予告」なんて書いてしまったものだから、 このタイトルで書かなければならなくなってしまった。 書きたいと思っていたことのはずなのに、いざ書き始めようとすると、義務感のようなものが邪魔をして、書くのが億劫になっ…
『寝床』の記事をずいぶん書いた気がするので、そろそろ他の噺について書こうかと思う。寝床で見るのは夢ってことで、『夢の酒』について書いてみよう。 なお、例によって、基本的に柳家さん喬の口演に準拠していることを申し添えておく。*1 【この記事の目…
当代随一の名人である柳家さん喬が抱える「問題」とは何事かと思われた方もいらっしゃるだろう。人目を引くためにセンセーショナルな表現にしたが、ファンに怒られる前に種明かしをしておこう。ここで言う「問題」とは、柳家さん喬は「上手すぎる」というこ…
「寝床」の旦那は妻が臨月だという小間物屋を疑っているかどうか問題 このページにたどり着いた方のほとんどには不要だと思うけど、もしかしたら「『寝床』を聴いたことがないけど、この記事を読んでみたい」という方がいらっしゃるかもしれないので、「寝床…
少し気分が落ち込んでいるとき、どんな落語を聴くのが良いだろうか。 あえて人情噺を聴いて涙を流し、カタルシスを得るという手段もあるが、人情噺をしっかり聴くには、ある程度の集中力が残っていなければならないので、落ち込みが激しいときには、涙を流す…
『なぜ柳家さん喬は柳家喬太郎の師匠なのか?』は、さん喬師匠と喬太郎師匠にインタビューしたものをまとめた本です。本文の用語などには、注が付いています。この注がとても充実しているので、注だけ読んでもおもしろいです。 本のタイトルの答えは、シンプ…
柳家さん喬さんの『噺家の卵 煮ても焼いても』を読みました。主に師弟関係についての楽しいエッセイ集です。小さん師匠とさん喬さんとの間の師弟関係、さん喬師匠とお弟子さん方との間の師弟関係。 まずは、小さん師匠とさん喬さん。 さん喬さんが、二つ目の…
柳家さん喬の『ねずみ』を聴いていたら、「子丑寅卯・・・」という十二支が出てくることに気付いたという話。 「鼠屋」は「子」、「虎屋」は「寅」なのは当然なんだけど、柳家さん喬は他にも縁語のように十二支を忍ばせている。それに気付いたきっかけは、ま…
「明烏」のおっかさんって一言も喋っていないことに気付いてた?」 ある日、帰宅するなり唐突に夫が放った一言。夫はしばしば唐突な物言いをするので、妻は真意を掴めずに困惑するのが常なんだけど、この言葉は輪をかけて意味不明。(何を言ってるの?) よ…
【場所】 TIAT SKY HALL 【開演】 2019年1月5日(土)14時 【出演者と演目】 春風亭正太郎 「初天神」 柳家三三 「二番煎じ」 仲入り 柳家さん喬 「妾馬」 春風亭正太郎さんは、予想通り「初天神」。お正月はやっぱり初天神を一度は聴きたいですよね。 …