柳家さん喬さんの『噺家の卵 煮ても焼いても』を読みました。主に師弟関係についての楽しいエッセイ集です。小さん師匠とさん喬さんとの間の師弟関係、さん喬師匠とお弟子さん方との間の師弟関係。
まずは、小さん師匠とさん喬さん。
さん喬さんが、二つ目の前座時代、高座に上がる時に、小さん師匠がご自身の羽織を着せてくれたエピソードを披露されています。さん喬さんにとって夢のような一瞬だったと。「妾馬」で大家さんが八五郎に袴を着せる場面が、このエピソードと重なります。
さん喬さんは、「妾馬」でこの場面を演じる時に、小さん師匠とのことを思い出しているのかなぁと勝手に思って聴いています。
何度読んでも笑ってしまうのは、小さん師匠との食事の話。小さん師匠は、熱々のラーメンやお蕎麦をものすごい勢いで食べ、あっという間に平らげてしまう。
弟子であるさん喬さんも師匠に遅れまじと、口の中を火傷しながらも、がんばって食べる。食べ終わると、小さん師匠が「旨かったな!」、さん喬さんは熱くて、味もなにもわからないけど、「ふぁ〜い」と返事をする。
さん喬さんは、テンポ良く、小さん師匠とのおもしろエピソードを披露しています。読むと、心が明るくなり、楽しくなってくる。さん喬さんのまくらを聴いているような感じがします。
さん喬師匠とお弟子さん。
11人いるお弟子さんのことも丁寧に綴っています。お弟子さんは、みんな個性豊かで、賑やかです。
特に印象に残ったのは、喬志郎さん。さん喬師匠が喬志郎さんに「松竹梅」を稽古した時に、喬志郎さんが噺の途中から始めるので、最初からやりなさいと言ったら、「最初のほうはいらないと思ったから、覚えていない」とのこと。さん喬師匠は激怒したそうです。そりゃ怒られますよね。うーん、喬志郎さん。
さん喬師匠は、こういう喬志郎さんを受け止めて、諭し、導いていくのですから、すごいです。学生時代、中学校の先生になろうかと思っていたとおっしゃっていたので、もし先生になっていたとしても、いい先生になられたんだろうなぁと思います。
海外での公演についても少しだけ触れられています。さん喬師匠が、フランスで「長短」をされた時に、フランス人が「この噺は哲学だ」と言って、盛り上がっていたんだそうです。気の長い人と気の短い人という正反対の二人が、なぜか大の仲良し、という設定の噺です。なんで「長短」が哲学なのかは、書かれていなかったので、わかりません。とっても気になる!