北海道の端っこで桜の色について考察する
だいぶ前のことだが、NHKの「リトルチャロ」で主人公のチャロが桜を「ピンク」と表現するシーンがあって *1、 驚いたことがある・・・などと桜のことを書き始めたら、季節外れだと思われそうだけど、北海道の端っこの方では、今頃桜の花びらが風に舞っているので、桜に思いを馳せるのはこの時期になるのだ。
【この記事の目次】
「ピンク」の衝撃
さて、その「ピンク」になぜ驚いたのかというと、日本を象徴するような花である桜を外来語である「ピンク」という色名で表現したことが新鮮に感じられたからだ。
"pink" と「ピンク」はイコールか
桜を見たことがないアメリカ生まれのドレッド(という名のキャラクター)に、桜がどんなものかを英語で説明するためには、"pink" と表現が自然なのかもしれないけど、それまで桜を「ピンク」だと認識したことはなかった私にとっては、その表現に感心すると同時に、ちょっとした違和感も抱いた。
試しにピンクにしてみると
「一陣の風が吹き、ピンクの花びらが舞い散る校庭を・・・」*2 だと、伝統的なイメージとはちょっと違って感じる気がする。
桜の色は「ピンク」で良いのだろうか。 違和感の元は外来語だからなのだろうか。
桜の花びらは「ピンク」か
「ピンク」は外来語であるというだけでなく、桜の色とは少しずれがあるように思う。八重桜は少し赤みが強く見える気がするので「ピンク」でも良い気がするが、普通の桜はもう少し薄いのではないか。「薄ピンク」なら良さそうな気もするが、一般的な表現ではない。
ピンク |
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桜は桃か
では、もし違う色名を使うとしたら、何が相応しいのだろう。
桜の色を最も端的に表しているのは、そのものずばりの「桜色」だと思うのだが、「桜は桜色です」なんて間抜けな表現になってしまう。そこで例えば「桃色」とすると、「桜は桃色です」なんて紛らわしい *3。「薄桃色」なら使えそうな気もするが、別な植物名はできれば避けたい。
桜色 | ピンク | 桃色 |
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薄紅色はどうか
では「薄紅色」はどうだろうか。「紅」も元々は「紅花」という植物が由来だろうが、手元の辞書には「紅花の汁で染めた色」とあり、「紅花」そのものの色ではないと思われる。「藍色」のように基本的な色名と考えても良いだろう。
桜色 | ピンク | 薄紅 | 桃色 |
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しかし、このように並べてみると、どれも桜色とはずいぶん違って見えるなぁ。
そもそも・・・
と、ここまで考えて、そもそも・・・と思った。そもそも、桜の色を意識したことなどあっただろうか。
毎年桜の開花を心待ちにしている日本の大人なら、桜の色をあえて表現しなくとも、「桜の花びら」と言えば「桜色」が思い浮かぶはず。「桜の花って、なに色だっけ?」なんていう会話は聞いたことがない。むしろ、桜の色は他の物体の色を表現するために「桜色」として用いられるような基本的な色名になっている。
最近では・・・
違和感の元はそこにあったんじゃないかなぁ・・・と思ってから時が経ち、最近では桜の開花を伝えるニュースで、インタビューされた大人が「ピンク色でとても綺麗でした。」なんて応えるのを聞くようになってしまった。子どもならまだしも、大人がそう応えるなんて・・・。時にはニュース原稿の中にまで入り込み「〜市では桜の開花が宣言され、市民がピンク色の花を楽しんでおりました・・・」なんていう感じのも聞いたことがあるような気がする。
「さくらさくら」
- さくら さくら
- やよいの空は
- 見わたす限り
- かすみか雲か
- 匂いぞ出ずる
- いざや いざや
- 見にゆかん
久々に「さくらさくら」の歌詞を見直してみたのだけれど、色についての言及はない。古来、多数の色名を付けて微妙な色合いを区別してきたはずの日本人が *4、江戸時代から歌い継いできた歌に書かれているのは、色ではなく「匂い」だ。
もはや懐古趣味に過ぎないのか
「桃ノ花ビラ」なんていう、桜の花びらの色を「桃色」と表現した歌があると知ったのは最近のことなんだけど、リリースされたのは15年以上も前らしい。時代の変化に取り残されてしまっているようだ。
おまけ
「桜」が入った歌をいくつか思い出して、「ピンク」か「ピンクの花」に変えてみた。
「ピンクの花びら散る度に 届かぬ思いがまた一つ・・・」
「ピンクの花 ひらひら 舞い降りて 落ちて・・・」
「失うとき はじめて まぶしかった時を知るの ピンクの花が枝に咲く頃は・・・」
「ピンクの花 ピンクの花 今、咲き誇る 刹那に散りゆく運命と知って・・・」
逆に「ピンク」のものを「桜色」にしたら、こうなる。
「桜色のモーツァルト」
「桜色レディー」
「桜色フロイド」
「桜色の林家ペーパー」
*1:「今週のワンシーン リトル・チャロの部屋|語学学習コミュニティ ゴガクル英語」(外部リンク)
*2:即興で適当に作った表現。出典などはない。
*3:「桃ノ花ビラ」という曲は桜の花を表現しているらしい。(「桃ノ花ビラ」Amazon)
*4:「日本人の美の心!日本の色【伝統色のいろは】(外部リンク)