『猫の皿』についていくつか記事を書いたのだけど、今回は2枚組CDのもう1枚について書いてみたい。
そのもう1枚の噺は『長短』。*1
しかしこの噺、「えほん寄席 *2 」で5分にまとめても違和感が無いくらい短い噺なのに、それだけで1枚のCDになるかなぁ・・・と思ったら、やはり小三治、枕が長い。37分34秒。
本編は約17分半なので、枕の方が20分も長いことになる。
「まくらの小三治」だから、べつに構わないけど。
ただ、枕の中でもトラックを切り分けたほうが便利だったんじゃないかなぁ。
少なくとも34分04秒のあたりで切っておいて欲しかった。
それはさておき、「正反対の性格のほうが、案外、付き合いが長く続くのではないか」というようなことがこの噺のテーマの1つになっていると思うが、それについて少し考えてみた。
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【この記事の目次】
『長短』と「短短」と「長長」
『長短』は、ひと言でいうと、気の長い人と気の短い人の話だ。
気の長い方の名は「長さん」、短い方は「短七」という名になっている。
短七は長さんののんびりした言動に対して「まどろっこしくて見ていられない」と腹を立てているが、ならば相手が気の短い性格だったら腹を立てずに済むのだろうか。
短短
気の短い2人なら、きっと喧嘩にならずに済む・・・とは思えない。
むしろ、最も喧嘩になりそうな組み合わせに思われる。
早とちり
「夕べ、夜中に起きて驚いた」と話し始める長さん。
まだ内容を十分に聞かない内に、短七は「火事か?」「泥棒か?」と自身の予測に基づいて尋ねる。
これは、早とちりにつながりやすい性格であると言えるだろう。
2人とも同様の性格であれば、早とちりの応酬となり、大きな騒動か大喧嘩に発展してしまう可能性は否定できないだろう。
せっかち
短七は自らが勧めた菓子を長さんが口に入れるのを見る前に「どうだ、うめぇだろう!」と声をかけてしまうほどせっかちだ。
長さんは「まだ食べてない。せわしないねぇ。」で済ませているが、気の短い相手ならば、それでは済まないかも知れない。
相手のテンポが短七より速ければ、短七が声をかける前に口に入れられる可能性はあるが、問題となるのは短七が長さんの口に入れる動作を確認する前に声をかけている点だ。
たとえ一瞬でも、口に入れる前に声をかけられれば、その言葉に即座に反応して、腹を立ててしまう可能性があるのではないだろうか。
「どうだ、うめぇだろう!」
「まだ食ってねぇよ!」
「なんで早く食わねぇんだ!」
「おめぇがそうやって話しかけるから食えねぇんだろ!」
と、喧嘩になってしまうかも知れない。
短七ほど気の短い者同士の会話では、常にこういった危険性を孕んでいると言える。
長長
長さんは2人の性格が正反対であることに触れた後、「子どもの時分からの友達で、いまだに喧嘩ひとつしたことがない」と述べる。
さらに「これで、どっか気が合う」と言いかけたところで、短七が「合いやしないよ!」と口を挟むのだが、長さんは一向に気にする様子がない。
つまり、短七がいくら腹を立てたところで、長さんはそれを喧嘩とは見なしておらず、2人の関係が壊れる要因にはならないということだ。
ということは、この2人の関係を支えているのは長さんであり、2人とも長さんと同じような性格であれば、うまくいくのだろうか。
タイムラグ
心配なのは、短七からの働きかけに対して長さんが反応するまでの時間の長さだ。
例えば、小三治の場合では、菓子を食べるように促されてから「いただくよ」と返事をするまでに10秒以上もかかり、実際に食べて「うまい菓子だ」と感想を言うまでには、さらに2分を要している。
マイペース
長さんのもうひとつの特徴は「マイペース」ではないだろうか。
「夜中に起きて驚いた」と話す長さんは、短七が明らかに結論を早く早くと求めているのに、それをまったく意に介さず、自分のペースで話し続ける。
合わせる気が無いのか、合わせられないのかは分からないが、常にマイペースであるのは確かだろう。
携帯電話ではハモれない
上記2つの特徴が重なれば、相手の働きかけに対するレスポンスが常にずれてしまう可能性が高い。
長さんがAという話題について話し終わり、Bについて話し始めた頃、相手がAに対するレスポンスA’を話し始める。しかし、長さんはBについて話し続け、それが終わってからA’に対するA’’を話し始めたら、相手はB’を話し始め・・・というように、ずれが拡大していき、常に話がかみ合わない状態が続くだろう。
かつて「トリビアの泉」というテレビ番組で、「携帯電話では声が届くまでにタイムラグがあるため、同時に歌うことができない」という知識が紹介されていたが、それと同じようなことが起きるのではないだろうか。*3
やはり長短
長さんと短七の関係は、「短七が腹を立てても、それを気にしない長さん」という図式だけで見てしまいがちだが、「マイペースな長さんに焦れながらも、最後まで話を聞いてやり、即座にレスポンスを返す短七」という面にも目を向ける必要がある。
これら両面に目を向けると、彼らの関係は、単に「ガキの時分から」の付き合いであるから成り立っているというわけではなく、双方にとって掛け替えのない友人であるということが言えるのではないだろうか。