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『三枚起請』の「棟梁」が棟梁である理由

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三枚起請』は、その基本的な筋が共通していても、登場する人物名が東西や演者によって違いがあるらしく、Wikipedia では、登場する3人の男性をそれぞれ「A」「B」「C」としている。*1

この3人が、自分達を手玉に取った遊女を懲らしめようと計画するのが『三枚起請』という物語なのだが、その企てを主導する「A」について、江戸の落語では恐らく「棟梁」とするのが一般的だろう。柳家さん喬も「棟梁」として演じている。*2

では、なぜ「棟梁」なのだろうか。「熊さん」や「八っつぁん」に変えることは可能なのだろうか。

※ 『三枚起請』のあらすじを確認したい方は ここをクリック してください。

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【この記事の目次】

三枚起請』の「棟梁」が棟梁である理由

念のため書いておくと、棟梁とは大工の現場責任者のこと。

江戸時代、大工は非常に人気の高い職業だったらしく *3 、落語にもよく登場し、「とうりゅう」と発音されることが多い。

面倒見の良さ

『落語ことば・事柄事典 *4 』の「棟梁」の項に次のようにある。

複数の弟子を引率して、お店(得意先・施工主)の丁場(区域・現場)へおもむき、弟子・子方の作業を監督するが、その面倒見のよさは、『大工調べ』『三井の大黒』などの落語にもよく描かれている。

三枚起請』では、家の前を通りかかった男「B」を「棟梁」が呼び止め、「B」の母親が心配していたからと、「B」の遊びを諫めようとするところから、物語が始まる。

そのためには「面倒見の良さ」を備えた棟梁が都合が良いと思われる。

年長者

棟梁は修業期間を経て責任者となったと思われるので、ある程度の年齢になっているはずだ。柳家さん喬の口演にも「なんでこの歳まで俺が独りでいると思ってやがんだ、畜生!」という台詞がある。

若い「B」だけでなく、年長の「棟梁」までもが騙されていたことが発覚し、遊女の手管の巧妙さが浮かび上がる。

冷静な判断力

2人の男が話していると、男「C」が通りかかり、「棟梁」は「おしゃべりの清公」が来たからと話を切り上げようとするのだが、当の本人にそれを聞かれてしまい、その怒りを静めなければならなくなる。

そこで、「棟梁」は「B」が騙されてしまった件を暴露することで、その場を切り抜けるのだが、悪口を本人に聞かれてしまうという、普通なら慌ててしまう状況においても、冷静に判断できるところは、さすが棟梁だ。*5

3人の男を手玉に取るような遊女を懲らしめるには、若い「B」や、感情的になりやすい「C」では荷が重いだろう。

言い逃れできなくなるような言葉を遊女から引き出し、追い詰めていく計画を立て、冷静に他の2人を統率するという役割は、やはり「棟梁」が適任だと言えるだろう。

「棟梁」の人物像

三枚起請』の「棟梁」は、面倒見が良く、他の男2人よりも年長で(しかし、ご隠居ほどの高齢ではなく)、遊女を追い詰める計画を立てて、それを冷静に実行できる人物だと言える。

ついでに言えば、遊女への仕返しの方法にさえ「粋」かどうかの判断基準を適用するような「粋」を信条とする人物だと推測できる。過激な復讐をしようとする「C」に対して、「そんなことをしては野暮だと嗤われる」と諭し、思い留まらせているからだ。もしも、不粋な人物であれば、過剰な復讐になってしまう可能性が高いので不適当だ。

落語に登場するキャラクターの中で、以上のような条件に当てはまるのは、やはり棟梁しかないだろう。

しかし、そんな「棟梁」をもってしても、遊女は最後には居直ってしまうわけだが、その辺りについて書くのは、また別の機会にしようと思う。

 

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*1:三枚起請 - Wikipedia

*2:

三枚起請

三枚起請

 

*3:towa-seisakusho.com

*4:

*5:自分の身を守るために簡単に他人の秘密を暴露してしまうとは、少しひどいんじゃないかとも思うが、「B」の秘密は同時に「棟梁」自身の秘密でもあるため、自身も傷つく覚悟があったとも解釈できる。

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