tadashiro’s blog

しろのブログ

落語、北海道、野鳥など。

落語

柳家喬太郎の『井戸の茶碗』における(自分の欲望に正直な)清兵衛について(後)

柳家喬太郎の『井戸の茶碗』では、一般的に演じられる人物像とは異なる描写で清兵衛が演じられる。*1 一般的な清兵衛は「正直清兵衛」とあだ名されるほどの正直者だが *2 、喬太郎の清兵衛は「自分の欲望に正直」として、馬鹿正直な人物としては描かれない。…

柳家喬太郎の『井戸の茶碗』における(自分の欲望に正直な)清兵衛について(前)

『超入門!落語 THE MOVIE』*1 という番組で柳家喬太郎の『井戸の茶碗』を観て以来、ずっと引っかかってきたことがあった。 それについて記事を書こうと下調べしていたら、同じようなことを考えた方がおられたようで、既に記事にされていた。 屑屋の清兵衛は…

『井戸の茶碗』の「支度金」を通して柳家さん喬と喬太郎の違いを考える

古典落語が描く時代の価値観と現代の価値観との違いが大きい場合、それをどのように解決するかは悩ましい問題なのではないかと思われる。 『井戸の茶碗』では、高潔な人物である千代田卜斎が、高木作左衛門から百五十両という大金を受領するに際して、「何の…

会話から地の文へのシームレスな移行(例えば『天狗裁き』)

【この記事の目次】 会話から地の文へのシームレスな移行(例えば『天狗裁き』) サゲに使われる場合 ソフトランディング 噺の途中で使われた場合(『天狗裁き』の場合) 立ち退き要求から奉行所へ 大きな転換点 もしも境目が目立ったら 会話から地の文への…

『三枚起請』の遊女(喜瀬川)について

これまで『三枚起請』の騙され組3人について書いてきたのは、遊女(喜瀬川)について考察するためだ。 被害者の特徴を明らかにすることで、喜瀬川の人物像を推定しやすくしようと考えたのだ。 ※ 『三枚起請』のあらすじを確認したい方は ここをクリック し…

『三枚起請』の第三の男(柳家さん喬の場合)

『三枚起請』には3人の男が登場する。 その3人のうち、最後に登場する男、Wikipedia では「C *1 」とされている人物に焦点を当てて、柳家さん喬の『三枚起請 *2 』を聴いてみたい。 ※ 『三枚起請』のあらすじを確認したい方は ここをクリック してくださ…

柳家さん喬が演じる『三枚起請』の「B」(=「若旦那の亥のさん」)

Wikipedia では、『三枚起請』に登場する男3人を抽象化して「A」「B」「C」と表している *1 。東西や演者によって、名前に違いがあるためだ。 しかし、実際に噺を聴く際には、当然ではあるが、もう少し具体性を帯びた人物像を思い浮かべた方が楽しめるだ…

『三枚起請』の「棟梁」が棟梁である理由

『三枚起請』は、その基本的な筋が共通していても、登場する人物名が東西や演者によって違いがあるらしく、Wikipedia では、登場する3人の男性をそれぞれ「A」「B」「C」としている。*1 この3人が、自分達を手玉に取った遊女を懲らしめようと計画するの…

柳家さん喬が演じる『棒鱈』に登場する「侍」の人物像を推定してみる

上手い落語家が演じる落語は、予備知識が無くても充分に面白いのだけど、一般教養レベルのほんのちょっとした知識があれば、より面白く聴けると思う。 例えば柳家さん喬の『棒鱈 *1 』は、何も知らずに聴いても楽しめるぐらい上手いのだけど、時代設定ぐらい…

柳家さん喬の『棒鱈』の面白さを探る

『棒鱈』の筋はとても単純だ。100字程度に要約すると こんな感じ だが、要するに「酔っぱらった町人が侍に絡む」というだけの話だ。 こんな噺がなぜ面白いのだろう。 柳家さん喬の口演に基づいて、考えてみたい。*1 【この記事の目次】 『棒鱈』の面白さ…

『天狗裁き』における「繰り返し」がもたらす面白さ

「この後、衝撃の展開が!」という面白さを否定するつもりは全くないのだけど、それだけでは繰り返し鑑賞したくなるような名作にはならないと思う。 先の展開が予想通りだとしても、そこに至る過程を楽しめるものでなければ、簡単に消費されるものにしかなら…

『天狗裁き』のエスカレーション

柳家さん喬の『天狗裁き』を聴いてから、こんな単純な噺がなぜ面白いのかを考えているのだけど、今回はさん喬の上手さについてではなくて、噺そのものについて考えたことを発表してみようと思う。 ※ なお、基本的に柳家さん喬の口演に準じています。細かい部…

『千両みかん』の番頭の「その後」を想像してみる

北海道はそれほど暑くはないのだけど、「暑い」というニュースをよく見るので、『千両みかん』について書いてみよう。 ※ あらすじを確認したい方は ここをクリック してください。 【この記事の目次】 『千両みかん』の番頭の「その後」を想像してみる 換金…

『百川』で「抜け作」だと罵られた百兵衛を弁護してみる

『百川』についていくつか記事を書いているうちに、その登場人物である百兵衛を中心に据えて書きたくなった。 百兵衛は、河岸の若い衆が言うように抜けているのだろうか。抜けているとしたら、どれくらい抜けているのだろうか。 ※『百川』のあらすじを確認し…

『百川』で百兵衛に遣いを頼む時に若い衆がする仕草は必要か

当研究会では、柳家さん喬の『百川』*1 の人気が非常に高く、常にヘビーローテーション状態にあるため、普通なら気にならないような些細なことまで気になってしまうのかも知れない。 今回は、1年ほど前に柳家さん喬が「日本の話芸」で演じた『百川』*2 で気…

『百川』における柳家さん喬の「ひゃくべっちゃす」問題

先週、季節外れを承知で『百川』の記事を書いたのだが、*1 そのせいで書きたい気持ちを抑えきれなくなってしまったので、再び『百川』について書いてしまおう。 ※『百川』のあらすじは ここをクリック(ネタバレ注意)してください。 『百川』における柳家さ…

「演芸図鑑」で久々に観た江戸家小猫がすごく良かった

今日の「演芸図鑑」に江戸家小猫が出演していた。 先代の小猫(四代目猫八)は、好きな芸人の一人だったので、名跡を継いでくれた当代の小猫には期待していたのだけど、名前だけでなく、肝心の芸の方もうまく継承できたんじゃないだろうか。 単なるコピーだ…

『百川』の「へーい」は誰の声なのか

三社祭の噺は季節外れだとは思うのだが、夏祭りの季節ということでご容赦いただきたい。 ということで、『百川』について以前から気になっていることを書こうと思う。 以前、「超入門!落語 THE MOVIE」について触れたときに、既に少しだけ書いたことなのだ…

落語100字要約裏話

検索で「100字要約」というカテゴリーに来てくださる方が増えてきたので、「裏話」を少々。 ちなみに「表」の記事は こちら です。 【この記事の目次】 落語100字要約裏話 きっかけは「ドラゴン桜2」 100字の難しさ 落語特有の難しさ 落ち(サゲ)…

「演芸図鑑」で柳家さん喬の『長短』を観て思ったこと

NHKの「演芸図鑑」を毎週見ている。そんなに早起きはできないから、録画視聴だけど。 今週の落語は柳家さん喬の『長短』だった。 「相変わらず上手いなぁ」と楽しむことはできたのだけど、残念ながら観客の笑い声が気になってしまって、100%楽しむこ…

「千両みかん」を現代的に「拡大解釈」してみる

7月も半ばだというのに北海道はまだまだ寒くて、暖房を使っていたりするのだけど、そんな北国にも暑い夏が来てくれることを願いながら、柳家さん喬の『千両みかん』を聴いてみた。 ※ あらすじを確認したい方は ここをクリック してください。 【この記事の目…

なぜ柳家さん喬が演じる『夢の酒』のお花は可愛らしいのか

『夢の酒』は、いわずとしれた「黒門町の師匠」桂文楽の十八番。文楽が作り上げた噺といってもいい、自家薬籠中のネタだった。 『柳家さん喬15夢の酒/妾馬 *1 』の「解題」で、長井好弘はこのように述べ、さらに、柳家さん喬の言葉として、以下のように紹介…

三遊亭金遊が演じた「錦の袈裟」の巧妙な下品さ

所用で飛行機に乗ったので、機内放送の「JAL名人会」を聴いていたら、三遊亭金遊の「錦の袈裟」がかかっていた。 この噺、今回初めて聴いて、その下品さに驚いた・・・のだけど、もう一度聴いてみたら、下品なイメージを抱いていた箇所が、直接的には下品な…

『夢の酒』においてご新造さんの容姿を詳細に描写する必要性について

いわゆる「いい女」の容姿をどのように描写すべきか。あるいは、そもそも描写しない方が良いのか。それは、表現者の目的によって異なるだろう。 『夢の酒』においてご新造さんの容姿を詳細に描写する必要性について 受け手にとっての「いい女」をイメージさ…

『夢の酒』の夢は「胡蝶の夢」か

前回、ちょっとした気まぐれで「次回予告」なんて書いてしまったものだから、 このタイトルで書かなければならなくなってしまった。 書きたいと思っていたことのはずなのに、いざ書き始めようとすると、義務感のようなものが邪魔をして、書くのが億劫になっ…

『夢の酒』の若旦那が妻であるお花の怒りを避けるためのシナリオ分岐点を探ってみた

『寝床』の記事をずいぶん書いた気がするので、そろそろ他の噺について書こうかと思う。寝床で見るのは夢ってことで、『夢の酒』について書いてみよう。 なお、例によって、基本的に柳家さん喬の口演に準拠していることを申し添えておく。*1 【この記事の目…

「寝床」の聴き比べをしながら落語における忌み言葉について考えてみた

忌み言葉というものがある。結婚式で「終わり」 を「お開き」と言い換えたりする類の言葉だ。「寝床」を聴き比べているうちに、少し思うところがあったので、書いてみようと思う。 ちなみに、今回の記事は、これまでの落語に関する記事と違って、少しですが…

「寝床」の義太夫を柳家さん喬はどう演じているか(さん喬が抱える悩ましい問題)

当代随一の名人である柳家さん喬が抱える「問題」とは何事かと思われた方もいらっしゃるだろう。人目を引くためにセンセーショナルな表現にしたが、ファンに怒られる前に種明かしをしておこう。ここで言う「問題」とは、柳家さん喬は「上手すぎる」というこ…

「寝床」の旦那は妻が臨月だという小間物屋を疑っているかどうか問題

「寝床」の旦那は妻が臨月だという小間物屋を疑っているかどうか問題 このページにたどり着いた方のほとんどには不要だと思うけど、もしかしたら「『寝床』を聴いたことがないけど、この記事を読んでみたい」という方がいらっしゃるかもしれないので、「寝床…

「寝床」の旦那はジャイアンと言えるか

少し気分が落ち込んでいるとき、どんな落語を聴くのが良いだろうか。 あえて人情噺を聴いて涙を流し、カタルシスを得るという手段もあるが、人情噺をしっかり聴くには、ある程度の集中力が残っていなければならないので、落ち込みが激しいときには、涙を流す…

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